棋書を読む意義<大内延介先生>

棋書(定跡)の丸暗記はいけないという。確かにそうだが学ぶ意義はある。
大内延介先生がその辺をわかりやすく説明してくださっている。

これで私の向飛車に関する解説はすべておわるが、あとがきにかえて、少しだけ付け加えておきたい。
 本書を読みおえたあと、中に記されていた具体的な指し手や変化手順を記憶するのもよいであろう。しかし、それだけでは棋書を読む意義はうすれるではなかろうか。極端なことをいえば、具体的な指し手や変化手順は、とりあえず忘れてしまってもよいと思うのである。定跡の丸暗記は決してあなたの血や肉とはなりえない。つまり丸暗記というものは、その場しのぎはできるかもしれないが、あなたの真の強さにはならないのである。
 しかし本書にかぎらずどの棋書でも、読後に何かぼんやりしたものが、あなたの気づかぬところで残っているはずである。そのぼんやりしたものこそが大局観である。大局観とは抽象的な言葉だが、”あの人は筋がいい”とか”鋭い感覚を持っている”とかいうのは、すべて大局観がすぐれているという意味である。
 本書で身についた大局観はあなたの内部に潜在しているものの、すぐには盤上には現れないかもしれない。しかしそれでよい。本書をまず一通り読んだら、書棚の奥へしまいこみ、自分自身の棋力で将棋を指してほしい。そして何局も何局も指しているうちに大局観はあなたの内部で成長し、やがては盤上に花ひらくことであろう。そうなったらもう一度本書を書棚の奥から捜し出して熟読願いたい。その時にこそ具体的な指し手や変化手順が丸暗記でなく、理解したうえで、正確に記憶できることになろう。ご上達をお祈り申し上げる。(了)


<必勝向かい飛車(著・大内延介)より>



この本はたまたま向かい飛車に興味を持った時期に古本購入したものである。
購入した目的とは違うが、このような発見があるのも古本書購入の一つの魅力でもある。